ゼロから始めるインディーレーベル Spotify & Apple Musicプレイリストピッチングガイド
プレイリストが音楽を届ける新しい道筋に
今日の音楽ストリーミング時代において、リスナーが新しい音楽と出会う主要な手段の一つが「プレイリスト」です。特にSpotifyやApple Musicといった主要プラットフォームが提供する公式プレイリストや、影響力のあるキュレーター、メディア、一般ユーザーが作成する様々なプレイリストは、楽曲の露出と再生回数を大きく左右する重要な要素となっています。
インディーレーベルにとって、これらのプレイリストに楽曲を掲載してもらうことは、より多くのリスナーにアーティストの音楽を届けるための強力なプロモーション手段となり得ます。資金や人的リソースが限られている場合でも、効果的なピッチング戦略を立てることで、大きな成果につながる可能性があります。
この記事では、これからインディーレーベル運営を始める皆様に向けて、SpotifyやApple Musicを中心としたプレイリストへのピッチング方法について、具体的な手順と成功のためのポイントを解説します。
プレイリストピッチングとは?その目的と重要性
プレイリストピッチングとは、あなたのレーベルに所属するアーティストの楽曲を、特定のプレイリストの選曲担当者(エディターやキュレーター)に提案し、プレイリストへの採用を目指す活動です。
この活動の主な目的は以下の通りです。
- 楽曲の露出増加: 多くのリスナーがフォローしている人気プレイリストに掲載されることで、楽曲の再生回数や認知度が飛躍的に向上します。
- 新規ファンの獲得: プレイリストを通じて音楽を聴いたリスナーが、アーティストやレーベルに関心を持ち、ファンになる可能性があります。
- 収益機会の拡大: 再生回数の増加は、ストリーミング収益の増加に直結します。
- アーティストのモチベーション向上: 楽曲がプレイリストに採用されることは、アーティストにとって大きな自信となり、今後の制作活動の励みになります。
特にインディーレーベルの場合、大規模なプロモーション予算がないことが多いため、プレイリストピッチングは費用対効果の高い有効な戦略と言えます。
ピッチングを始める前の準備
効果的なプレイリストピッチングを行うためには、いくつかの準備が必要です。
1. 魅力的な楽曲・音源の準備
最も重要なのは、ピッチングする楽曲そのものの質です。リスナーやキュレーターに「良い」と感じてもらえるクオリティの楽曲を用意することが大前提となります。レコーディング、ミックス、マスタリングはプロフェッショナルなクオリティを目指しましょう。過去の記事「はじめての外部委託 インディーレーベルのレコーディング・ミックス・マスタリングガイド」なども参考にしてください。
2. アーティストプロフィールと写真
楽曲だけでなく、アーティスト自身への興味を持ってもらうことも重要です。アーティストのバイオグラフィー、音楽性、活動歴などを分かりやすくまとめたプロフィール、そしてプロが撮影した高品質なアーティスト写真を用意しましょう。これはピッチング時に添付したり、プロフィールページへのリンクを示す際に役立ちます。
3. 楽曲情報の整理
楽曲のジャンル、ムード(例: リラックス、エネルギッシュ)、楽器構成、歌詞のテーマ、影響を受けたアーティストなど、楽曲の特徴を正確かつ具体的に説明できるように情報を整理しておきます。これらの情報は、プレイリストの選曲担当者が楽曲を適切なプレイリストに分類するために非常に重要です。
4. リリース日の設定(重要!)
プレイリストピッチング、特に主要プラットフォームの公式プレイリストへのピッチングは、楽曲リリース前に行う必要があります。ピッチングの期限を考慮して、余裕を持ったリリーススケジュールを設定してください。
主要プラットフォームでのプレイリストピッチング方法
Spotify for Artistsでのピッチング
Spotifyは、アーティストやレーベル自身が未リリースの楽曲を公式プレイリストのエディターに直接ピッチングできる機能を提供しています。
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Spotify for Artistsに登録・認証する: まだ登録していない場合は、Spotify for Artistsサイトから申請し、アーティストページの認証を受けます。これにより、統計情報の確認や、このピッチング機能などが利用できるようになります。
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未リリース楽曲を選択する: 音楽配信ディストリビューターを通じてSpotifyに配信予定の未リリース楽曲がある場合、Spotify for Artistsのダッシュボードにその楽曲が表示されます。
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ピッチング情報を入力する: ピッチングしたい楽曲を選び、「Pitch to Editors」またはそれに類するボタンをクリックします。ここで、楽曲に関する詳細情報を入力します。
- 場所: アーティストの活動拠点となる国や地域
- ジャンル: 楽曲の主要ジャンル(複数選択可能)
- サブジャンル: より詳細なジャンル(例: インディーポップ、Lo-fi hip hopなど)
- ムード: 楽曲の雰囲気(例: Happy, Sad, Energeticなど)
- スタイル/楽器: 楽曲で特徴的なスタイルや楽器(例: アコースティック、シンセサイザーなど)
- 言語: 歌詞の言語(インストゥルメンタルの場合は該当なし)
- 楽曲の解説: 最も重要な項目の一つです。 楽曲の背景にあるストーリー、制作意図、歌詞の意味、アーティストのメッセージなどを、具体的に、魅力的に記述します。なぜこの楽曲が特定のプレイリストに合うと思うのか、といった視点を含めるのも良いでしょう。ただし、個人的なメッセージや過度なアピールは避け、客観的かつ情熱的に記述することが推奨されます。日本語で記述して問題ありません。
- 過去の活動実績: もしあれば、注目すべきライブ出演、メディア掲載、SNSでの反響などの情報も補足的に記載できます。
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ピッチングを完了する: 入力した情報を確認し、ピッチングを送信します。
【重要】ピッチングの期限: 楽曲のリリース日よりも最低7日前までにピッチングを完了する必要があります。 期限を過ぎると、この公式ピッチング機能は利用できなくなりますので、十分注意してください。ピッチングが受理された場合でも、必ずしもプレイリストに採用されるわけではありません。結果はリリース後にSpotify for Artists上で確認できます。
Apple Music for Artistsでのピッチング
Apple Musicでも、アーティストやレーベル向けの管理ツール「Apple Music for Artists」を提供しています。しかし、Spotifyのように未リリース楽曲をエディターに直接ピッチングする専用の機能は(2023年11月現在)提供されていません。
Apple Musicのプレイリストに採用されるためには、以下の方法が考えられます。
- Apple Musicの担当者やリレーションシップがある場合: 直接担当者に連絡し、楽曲情報を送付します。多くのインディーレーベルにとってこれは難しいかもしれません。
- 音楽ディストリビューター経由: 利用している音楽配信ディストリビューターによっては、Apple Music含む各プラットフォームのエディターに楽曲を推薦する機能やサービスを提供している場合があります。契約しているディストリビューターに確認してみましょう。
- 楽曲がプラットフォーム上で実績を出す: リリース後に多くのリスナーに聴かれたり、SNS等で話題になったりすることで、Apple Musicのエディターの目に留まる可能性があります。まずは他のプロモーションを通じて楽曲への注目を集めることが重要です。
Apple Musicにおいても、Spotifyと同様に楽曲のクオリティやアーティスト情報が重要であることに変わりはありません。
その他のプレイリストへのアプローチ
SpotifyやApple Musicの公式プレイリスト以外にも、様々な種類のプレイリストが存在します。
- インディーキュレーターやブロガーのプレイリスト: 特定のジャンルに特化した、熱心な音楽ファンが運営するプレイリストです。ニッチなジャンルでも熱狂的なリスナーにリーチできる可能性があります。
- 音楽メディアやブログのプレイリスト: 音楽メディアが運営するプレイリストは、そのメディアの読者層にアプローチできます。
- ブランドや企業のプレイリスト: 特定のライフスタイルやシーンに合わせたプレイリストです。
これらのプレイリストにアプローチする場合、以下のような方法が考えられます。
- プレイリストの特定: 自分の楽曲やアーティストの音楽性に合うプレイリストを探します。SpotifyやApple Musicの検索機能、音楽ブログ、SNSなどで探すことができます。プレイリストの説明文や選曲傾向を確認しましょう。
- コンタクト方法の確認: プレイリストの概要欄や運営者のウェブサイト、SNSなどにコンタクト方法(メールアドレス、問い合わせフォーム、SNSのDMなど)が記載されているか確認します。
- 丁寧なアプローチ: 連絡する際は、丁寧な言葉遣いを心がけ、以下の情報を含めます。
- 自己紹介(レーベル名、アーティスト名)
- ピッチングしたい楽曲(未リリースまたは最新リリース)
- 楽曲のストリーミングリンク(Spotify, Apple Musicなど)
- アーティストプロフィールやウェブサイトへのリンク
- なぜこの楽曲がそのプレイリストに合うと思うのか、具体的な理由(選曲傾向を理解していることを示す)
- 簡潔かつ魅力的な楽曲の説明
無差別に多数のプレイリストに同じメッセージを送るのではなく、それぞれのプレイリストの特性を理解し、パーソナライズされたメッセージを送ることが成功率を高める鍵です。また、返信がない場合でも、催促の連絡は控えめにしましょう。
ピッチングを成功させるためのポイント
- リリーススケジュールに余裕を持つ: 特にSpotifyの公式ピッチング機能を利用するには、リリース日より最低7日前が期限です。余裕を持って準備を進めましょう。
- 楽曲の魅力を具体的に伝える: ピッチングの際は、単に「聴いてください」ではなく、楽曲の個性、背景、リスナーにどう響くかを具体的に記述します。
- ターゲットを絞る: 自分の楽曲に最適なプレイリストを選び、そこに集中してアプローチすることで、採用される可能性が高まります。
- 忍耐強く、継続的に: 一度のピッチングで必ず成果が出るわけではありません。継続的に良い楽曲をリリースし、丁寧にアプローチを続けることが重要です。
- 結果を分析する: どのプレイリストに採用されたか、そこからの再生回数はどのくらいかなどを分析し、今後の楽曲制作やピッチング戦略に活かしましょう。
まとめ
プレイリストへのピッチングは、インディーレーベルがアーティストの音楽を広く知ってもらうための非常に有効な手段です。Spotify for Artistsのような公式ツールを活用し、あるいは自分で影響力のあるプレイリストキュレーターにアプローチすることで、新たなリスナーとの出会いを創出できます。
成功のためには、高品質な楽曲を用意すること、アーティストの情報を整理すること、そしてリリース前の適切なタイミングで、楽曲の魅力を丁寧に伝えるピッチングを行うことが重要です。必ずしも全てのピッチングが成功するわけではありませんが、諦めずに継続的な努力を続けることで、少しずつ成果は現れてくるはずです。
この記事が、皆様のプレイリストピッチング活動の一助となれば幸いです。アーティストと共に成長していくために、ぜひこのプレイリストピッチングという実践的なプロモーション手法を取り入れてみてください。